人気ブログランキング | 話題のタグを見る

忘れられない星空(その2)

忘れられない星空(その2)_b0167343_11405553.jpg大学生の頃、南アルプスに入る林道が冬期閉鎖される直前の11月初めの晩に、ひとりで星を見にでかけた。川沿いの林道には人工の光は一切なく、そんな季節のその時間には、すれ違う車は一台もなかった。つづら折りの林道を走ると、南に視界が開けた場所があった。

車を降りてみると、南の空の低いところにカノープスが見えているのが、すぐにわかった。シリウスに次いで全天で2番目に明るい星であるが、当地では緯度の関係から見る事は難しく、見たのは初めてだった。夢中でカメラを構えるとシャッターを開いて固定撮影を始めた。

どれくらい時間が経ったころだったろうか、急に近くでガサゴソと薮を分け入る物音がした。そして、その音の主も私の存在に気が付いたのだろうか、今度は急に音が途絶えたのだ。

忘れられない星空(その2)_b0167343_11411076.jpg電気に打たれたかのように、体が全く動かない。耳に全神経を集中させると、腕時計の秒針が動く音がビックリする程にハッキリと聞こえてきた。真っ暗闇の中で見えない相手との間合いをひたすら探り合っていた。しかし、とうとう沈黙に耐えきれなくなって、一気に車に走り込むとエンジンをかけてヘッド・ライトを灯けた。が、もちろん何も見えはしなかった。

冷静に考えてみれば、大きくてもタヌキ程度の小動物だったのだろうと思う。しかし、物音以上に怖かったのは、その後の沈黙だった。思考が完全に停止し、恐怖感がぐんぐんと胸の中で大きくなっていった。誰もいない真っ暗な山中に独りでいることが急に怖くなったのだった。

せっかくの写真がどうなったか、今となっては全く憶えていないが、アルバムにはカノープスの写真は残っていないので、台無しになったことは間違いない。その代りに、翌朝に撮影した山々の写真が今も残っている。

by Nikon8cmtelescope | 2009-09-05 11:46 | 天文少年の頃