匂いの記憶

小さい頃は父の車に乗せられて、よく商売の取引先などに連れていかれた。帰りは暗くなっていることも多く、バンの後ろに寝転がってはウインドウ越しに月を見上げながら乗っていた。車を追いかけるように月も一緒に動いて見えるのがとても面白く不思議だった。
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桜が満開になった4月2日は久しぶりにきれいな夜空で、帰り道に上弦の月が輝いていた。翌日は息子と約束があって休暇を取っていたので、急いで望遠鏡を出した。気流の中で土星は踊っていたが、月を見るには問題はなく、春霞が吹き飛んだ分シャープな印象だった。
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半月の欠け際には面白い地形が多く見ていて飽きない。輝く月面と、影を引いて黒く見えるクレーターのコントラストが美しい。そんな月を望遠鏡で追いかけ写真を撮っていると、ある匂いの記憶がよみがえってきた。月を見ていると思い出される記憶だ。

それは糸に染み付いた染色液の甘い匂いだ。織物関係の商売をしていたので、父の車は糸の染色液の匂いがして、その中で月を見上げていた。いつのまにか寝てしまうことも多く、家に着いて父から起こされると、車から降りながら眠い目でまた月を見上げた。

自分が眠っている間も運転していた父と、家までついて来た月が重なって、どちらにも自分を守ってくれる安心感があった。月を見るのが好きなのは、そんなことにも理由があるかも知れない。

b0167343_1845295.jpgこの観測を世界天文年の
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by Nikon8cmtelescope | 2009-04-04 12:16 |