失われた古都の夜(その1)

子供の頃から五重塔が好きだった。中学と高校の修学旅行では、どの五重塔を訪れても立ち去りがたい気持ちになった。幸田露伴の「五重塔」は、本が薄く手頃だった事もあるが高校時代に読んだし、梅原猛の「隠された十字架:法隆寺論」を大学時代に夢中で読み、相輪に架かる鎌が実際に見たくて独りで奈良に出かけたこともあった。

かねてから五重塔にかかる星空を眺めてみたいと思っていたところ、奈良に出張する機会が出来た。大学生の時に訪れてから早30年近く経っている。星空は難しいかも知れないが、月光が射す塔を是非見に行こうと楽しみにしていた。

月を見るには不向きな下弦過ぎの月齢に当たってしまったのは残念だったが、予約が遅くなって適当なホテルが奈良市内に確保できなかったのをいい事に、仕事上は多少不便であるが2泊目は京都にした。京都にも美しい五重塔があるので、そちらも夜に散策してみようという魂胆だった。

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奈良の夜は曇天で星は見えなかったが、興福寺の五重塔はライト・アップされ、三重塔は四方から街灯に照らされていた。いずれもデジカメを地面に置いて夜景モードで撮影したが、黒く沈む松の枝越しに見る灯りに照らされて古色蒼然とそびえる塔や、猿沢池畔の新緑との対比に浮かび上がる塔、そして街灯に照らされた夜気に霞むような三重塔のいずれもが、それはそれで美しかった。

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晴天に恵まれた翌日の京都での夜は、東寺の塔の勇姿に大いに期待したが、夕方に下見を兼ねて訪れると既に境内に入る事はできなかった。仕方なく近くの歩道橋の上から夕日に染まる塔を撮影したが、日没と同時に塔を照らすライトが早々と点灯された。古い町並みにひっそりとたたずむ八坂の塔も、やはりライト・アップされていた。高台寺の界隈では新緑が灯りに照らされていた。暗がりに浮かぶ知恩院の三門は、例祭のための飾りで幻想的だったが、石段の下から柵越しに撮影する以外になかった。

どれも美しいのだが、自分が求めている古都の夜の姿はなかなか得られなかった。
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by Nikon8cmtelescope | 2009-04-19 11:24 | 月・星のある風景