風の晩に(オメガ星団)

強風の中にいると心がかき乱されるのは、動物としての本能なのだろうか。2月25日の晩のことだ。

思い返せばスタートからしてせわしなかった。勤務の関係で家に戻ったのは午前1時前。しかしそれは以前から判っていた事だし、翌日にゆっくりすれば問題はなかった。30mm接眼レンズの表面の汚れが以前から気になっていたので、出掛けに急いでクリーニングした。そして機材を車に積むと八ヶ岳山麓を目指した。

目的地に近付くにつれ、ヘッドライトの中に何か舞っているのが目につくようになった。車の窓越しには星が見えているのだが雪だった。あっという間に本降りになってきたため止むなくUターンする。高度を下げて田圃の中の小さな公園に陣取ったが、遮るものがなく視界が広いぶんだけ寒風が吹き抜けている。時計は午前2時をまわって東の空に下弦の月が昇ってきたが、見事な星空だ。

家を出た時の慌ただしさのまま満天の星の下に立ったせいか気持ちが急く。まずは北天の銀河に望遠鏡を向けようとしたが、八ヶ岳から吹き下ろす冷たい北風にあおられて、目的の天体がうまく導けない。振返ると「からす座」の四辺形が南中していて、まだ見ぬオメガ星団を眺めるにはうってつけのタイミングだった。双眼鏡で確認してみると、星図と照らし合わせるまでもなく一目でそれとわかる光芒が山の稜線の上に見える。自宅からは全くのお手上げだったのが、空が暗いとこんなにもあっさりと見えるものなのか。期待に胸を膨らませて望遠鏡を向けたが・・・接眼レンズがおかしい。よく見ると中心部がうっすらと結露している。レンズのクリーニングの際にレンズ内部に水分が残ってしまったようだ。

そこで、ツアイス・サイズの25mm接眼レンズに付け替えて眺めてみると、たしかに大きいが捉えどころのない光芒だ。露光時間を2.5秒に設定して手持ち撮影を始めたが、モニターで見る画像もやはりボンヤリしている。何か望遠鏡に問題があるのだろうか?そこで土星を見てみたが、強風の割に良く見えているので望遠鏡に問題はなさそうだし、上空の気流もそれほど悪くないようだ。それならと腰を据えて撮影をはじめた。次第に指先の感覚が失われてくるが、背中をあおる強い北風と競争しているかのように、夢中でコマ数を重ねていった。

b0167343_14312876.jpg時間とともに風が強まり望遠鏡が揺れるのが凍えた手でも判るようになって我に返った。撮影したコマをデジカメのモニターで確認したら、視野内の星がぼんやり肥大して写っている。気流の影響よりも、風で望遠鏡が振動するために、ボンヤリした写真になっていたのだった。未練がましく64コマをコンポジット処理してみたが、そもそも周辺の星自体がここまで大きく肥大していては、球状星団の個々の星が分離して写るはずもない。

強風でひどい写真になったが、強い季節風のおかげで地平線近くまで澄み切った空になったので見る事が出来た、とも言える。無理をして出かけて行った成果はあったと考えたい。
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by Nikon8cmtelescope | 2011-03-05 14:34