伝説の天体写真家(馬頭星雲)

微動ハンドルを握りしめて手動でガイド星を追いかける撮影方法が「手動ガイド」だと思っていたのだが、星ナビ1月号の「すごい天体写真が撮りたい!」という連載記事を読んでいてアレ!?と思った。モータードライブによる追尾をガイド鏡で絶えず肉眼で監視しながら「手動で誤差を補正すること」を、「手動ガイド」と定義していたからだ。そうだとすれば、今の追尾方法は「完全手動ガイド」とでも表現するべきなのだろう。もちろん、この場合の「完全」は「完璧」という意味ではなく、「機械の助けを一切借りずに全て手動で行なう」という意味である。なぜ、そんな「完全手動ガイド」をやっているかと言えば、30年以上も前に製造されたNikon 8cmの赤道儀に使用可能なモータードライブはもはや入手できないし、自作はもちろん既製品を改造するような才覚もないからに他ならない。

キザな言い方ではあるが、「完全手動ガイド」は日常生活から遊離しての自然との対話でもある。何十回と繰り返すことにはなるものの、1回の追尾は長くて1分程度なので、コンデジがダーク減算処理をしている間には、肩を廻して腰を伸ばすことができる。冷えきった指先をさすって、楽な姿勢をとって一息つくと、再び微動ハンドルを握りしめ、ひたすらガイド星が十字線に重なるように意識を手先に集中させる。その間は、遠くの梢を鳴らす風の音にも耳を傾け、風が強まる気配をいちはやく感じて身構える。風に煽られ姿勢が少しでも変わると、ガイド星を覗き込む角度も変わり、追尾がうまくいかなくなるからだ。そして、頭のなかで露光時間をカウント・ダウンしていく。単純な作業なのだが、いろいろな感覚を研ぎすます必要がある。

釣り人のエッセイで「全てを忘れたいから釣りをやっているわけじゃあないんだけど、釣りをしていると、どうもすべてを忘れてしまってね」というセリフを読んだが(湯川豊『イワナの夏』)、「釣り」を「手動ガイド」に置き換えると、まさに我が意を得たりという感じだ。

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その「完全手動ガイド」で思い出されるのは、天文少年の頃に愛読した「天体写真の写し方」(藤井旭)に出てくる古田俊正氏の姿だ。自作反射望遠鏡を使いドライ・アイスでカメラごとフィルムを冷却した上で10分を越える露光を行い、当時としては別次元の写真を撮っていた伝説の人だ。地面に胡座をかいて望遠鏡を覗き込み微動ハンドルを握りしめて追尾する様は、泰然自若として全てを超越したオーラが出ていた。自分も、こんな風にして美しい天体写真を撮りたいものだと憧れたものだった。今、こうして短い時間ながらも「完全手動追尾」をしていると、憧れの古田俊正氏の姿と重なってきて不思議な満足感がある。それも、この方法を続けている要因の1つかも知れない。

12月26日の晩には、その「完全手動追尾」でNikon 8cmのコンデジによるコリメート法によって、馬頭星雲を撮影してみた。露光時間は64秒と40秒で、ISOは3200から1600までの条件で撮影した32コマをコンポジット処理した。深紅のガスに切れ込んだ暗黒の馬頭と、青白いNGC2023星雲、そしてオレンジ色の火焔星雲の組み合わせが面白く、大きな青い光芒として写るアルニタクとの対比が美しい。少年時代からの憧れの対象が、自らの手でここまで写せただから幸せこの上ない。

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ただ、ここまで写るのだったら露光時間を倍ぐらいに延ばせれば良かった。それなのに、ついつい欲張って1つでも多くの天体を撮影したくて、中途半端なままに次の対象に望遠鏡を向けてしまう。除夜の鐘と一緒に煩悩を捨てるべきなのだが、今となっては今年の大晦日まで待たねばならない・・・。

追加
くっしーさんから、アルニタクの輝きが膨化してしまっているとの指摘をいただきました。馬頭星雲の露光不足を補うべく強調処理が行き過ぎたためなのですが、少し調整し直してみましたのでアップしてみます(余り変わらないような・・・)。ついでに周辺部を若干トリミングしてあります。画像処理が全くの自己流なので、トーンカーブの調整法を勉強しないと・・・・。
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追加その2
この記事に検索して辿り着かれる方が多いようなので、この後にフィルターを使用して撮影した馬頭星雲はこちらもどうぞ。

追加その3
最新の画像はこちらをどうぞ。

追加その4
2014年の最新画像はこちらをどうぞ。
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by Nikon8cmtelescope | 2012-01-07 01:25 | 天文少年の頃