アイソン彗星騒動記

急に増光したアイソン彗星の勇姿をぜひ我が手でも!と、2泊3日の出張から戻った11月17日の晩、仮眠をとると機材を車に積み込んで家を出た。明け方近くになれば、盆地は全体的に晴れるという予報に期待する。しかし冷え込みが緩み湿度が高く、満月が明るく雲を照らしている。盆地の西側の高台に登れば東の空が開けるし、低地の霧のような雲も避けられるのではと考えた。

目的地まで来ると、どうも予想と違っている。盆地の底全体に溜まった湿気が厚いレンズのように東の空を遮っている。美しい夜景の上には、月明かりで白くなった靄が覆い被さり、盆地の反対側が全く確認出来ない。盆地の底で見たよりも東の空の透明度が数段低くなっている。時刻は午前3時をまわっているが、これじゃあダメだと観念し、来た道を戻った。あまり東側に行ってしまうと山が邪魔をするので、結局自宅近くの市営グラウンドの駐車場に舞い戻った。

車を降りると双眼鏡を片手に、東側の電線が邪魔にならないか公園の小高い丘のような場所まで確認に行った。満月に照らされて空全体が発光体になったかのように白く光を抱き、目を凝らすようにしないとオリオン座ですらよく見えない。それでも、丘の上なら東側の眺望は大丈夫だと確認して車に戻ろうとすると、別の車が駐車場に入ってきた。ドアを開閉する音が大きく聞こえたと思ったら、慌ただしく懐中電灯を灯した人影が2つ出て来て、停めておいた車を照らして確認している。ただならない雰囲気を感じて思わず足を止めた。

どうやら相手は警官のようだ。仕方なく近づくと「どうかしましたか?」と声をかけた。曰く「バックドアが開いたままで停まっていたので、確認していたところです。積んであるのは望遠鏡ですか?」「はい、世間でアイソン彗星が騒がれているので見に来たのですが・・・アイソン彗星って、ご存知ないですか?」「いやあ、聞いた事ないけど・・・」「ご心配おかけして申し訳ありません。ご苦労様でした。」どうも通報された訳ではなくて、巡回中に不審車として発見して確認していたようだ。説明したら意外とあっさり放免してくれた。

それから大急ぎで望遠鏡を組み上げた。白い空に埋もれそうな北斗七星からの曲線を辿ると、アークトゥルスが確認できた。ってことは、時間的にもそろそろスピカが見えるハズ。双眼鏡で探すと、あった。公園の木立の上に弱々しい光を見つけた。角度的に盆地の東側の山の上に姿を現したばかりのようだ。しかし、双眼鏡では彗星らしいものは全く確認できない。とにかくNikon 8cmをスピカに向けて、ガイド鏡にもスピカを導入すると、コンデジのISOを2000で15秒露光してみた。バックモニターに現れた画像は、完全に真っ白だった。

ISOを200まで落としてスピカの周囲を何度か試写すると、彗星らしい光芒を確認できた。カメラを外して眼視で確認してみると、どうやら見えているような気もするが、スピカのゴーストのようにも見える。構図を調整しようと微動装置を動かすと、眼視ですら白っぽく見える視野に埋もれて、どこにあるのかわからなくなる。それでも試写しては眼視で確認する事を繰り返し、構図を整えながらガイド鏡の視野の中心にはスピカを据えることが出来た。

露光時間を32秒に延ばしISOを125まで落としてコリメート撮影してみると、それでも彗星の尾は背景に埋もれてしまった。車まで走るとLPS-P2フィルターを大急ぎで取って来て、接眼レンズに装着した。もう試写している時間的な余裕はない。フィルターによる減光を考えて、ISOはそのままで露光時間を40秒まで増やし、セルフタイマーを10コマ連写にして撮影を開始した。

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2013年11月18日 5:14- 5:26 甲府盆地
Nikon 8cm (f 1200mm) + Takahashi LE30 (30mm) 手動ガイドによるCanon PowerShot S95 コリメート撮影
LPS-P2 filter (露光時間40秒; ISO 125) x 10コマ  全10コマ積算露光時間 6分 
オートダーク減算 + Photoshop Elementsを用いて彗星に合わせてコンポジット+中心部70%をトリミング


コンポジットした画像は、それ以上の処理を施して何とかなるようなシロモノではなかった。たまたま、この夜はスピカに接近していたので、真っ白な空の中でも何とか探し出すことができたアイソン彗星だが、手にした画像は急速増光の勇姿からは程遠いものだった。
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by Nikon8cmtelescope | 2013-11-19 00:04 | 彗星