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忘れられない星空(その3)

小学校の4・5年生の頃に、父が知り合いからウサギをもらってきた。灰色の小型のウサギで、庭に放し飼いにしても逃げなかった。庭を駆け回る姿が愛らしく、また抱いた時の温かさが心地よくて、最初はよく面倒をみていた。

食べやすい草を採ってきたり、クズ野菜を与えたりしていたのだが、そのうち庭に放すだけで、だんだんとエサをやる回数が少なくなってきた。その事に後ろめたい気持ちを抱いてはいたが、ウサギが元気なので、そのままになっていた。

夏も終わって秋の到来を感ずるようになった日曜日だったと思う。いつものようにウサギを庭に放してやると、移動しながら草を食べていた。その姿に、悲惨な結末が迫っていようとは夢にも思わなかった。

夕方に日が落ちて薄暗くなったころ、家に入る前にウサギ小屋の箱をのぞくと、ウサギが死んでいた。信じられない気持ちで抱き上げると、まだ微かに温もりが残っていた。その温もりを感じた時に、きちんと面倒を見てやらなかった自分の罪の重さが実感された。

拭っても拭っても涙が流れ出た。そして真っ暗になってもウサギ小屋の前で泣いていた。母親から家に入るように言われても、家の中にはどうしても入りたくなかった。明るい家の中では、自分の犯した罪が白日の下にさらされるようで辛かったのだ。

ふと空を見上げると、たくさんの星が見えていた。涙で滲んだ星の輝きは、暗く沈んだ自分の気持ちに、かすかな救いを差し伸べてくれているような気がした。

by Nikon8cmtelescope | 2009-09-08 23:48 | 天文少年の頃