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憧れの地へ(その1)

少年時代は、その名を目にしたり耳にするだけで胸がときめいた。上京の折に列車で近くを通過する時は、見えないとはわかっていても車窓の遠くの森に目を凝らした。進路が決まって、自分とは縁のない場所になったとわかっても、忘れられるはずはなかった。想いを胸の奥にしまおうと思えば思うほど、かえって強く意識するようになった。

それでも社会に出て仕事が面白くなってくると、その想いは胸の片隅でおとなしくなった。忙しくて構っていられなくなった、と言った方が正しいかったのかも知れない。

自分には無縁の場所だと決まってから30年近くを経て、ふとしたきっかけで、憧れの場所で働く人達と接するようになった。すると、その人達に対して深い尊敬の念とともに何とも言えない嫉妬を抱いている自分に気付き、戸惑い狼狽えた。最初は打ち消そうとしたが、間違いなかった。やはり想いは消えた訳ではなかったのだ。

いや、むしろ仕事の面白さを知った分だけ、憧れの場所で働いている人達が羨ましく、そして妬ましかった。しかし、嫉妬していることに気付きその自分を受け入れたことで、やがて想いは少しずつ落ち着いてきた。

憧れの地へ(その1)_b0167343_0395599.jpg週末に東京・三鷹の国立天文台で開催された研究会に参加した。職場で子ども達と一緒に星を見ているうちに、その様子を研究会で話をして欲しいと機会が巡ってきたのだ。しかも、天文台の構内にある宿泊施設に1泊することになった。自分には縁のない場所だと思っていたのに、思いもかけない流れで憧れの地を踏むことになった。

車を降りて正門を抜ける時には、天にも昇るような気持ちで声を上げて走り出したいような衝動に駆られた。守衛室で受付を済ませて我に帰ると、鞄と上着を放り投げて正門を写真に収めた。夕暮れの構内は都内とは思えないような静けさだった。

by Nikon8cmtelescope | 2010-06-09 00:42 | 天文少年の頃